更新日:2023-02-18
『民法改正で新設された配偶者居住権について詳しく知りたい』
『配偶者居住権の設定を検討している』
この記事はそのような方向けに書いています。
こんにちは、司法書士、行政書士の樋口です。
私は東京都新宿区に本社を構える司法書士法人リーガル・ソリューションの代表司法書士で、相続、不動産登記、不動産に関する訴訟手続きをメインに取り扱っています。
民法改正により新たな権利として、配偶者居住権の制度が創設されました。
配偶者居住権には、配偶者居住権と配偶者短期居住権の2種類があり、どちらも残された配偶者が自宅に無償で住み続けることが出来る権利です。
この記事では、両者の違いや配偶者居住権の概要や要件、実際に登記申請する場合等、図解を交えて誰にでもわかるよう詳しく解説しています。
配偶者居住権の設定を検討されている方の参考になるかと思いますので、よろしければ最後までご覧ください。
この記事で分かること
配偶者居住権とは
配偶者居住権は、夫婦の一方が亡くなった場合に、残された配偶者が、被相続人の遺産である自宅に無償で住み続けることができる権利です。
被相続人の死後も、配偶者が安定した生活を送ることができるようにするため新しく作られました。
例えば、遺産として夫婦で暮らしていた家と預貯金があり、配偶者と子が法定相続分どおりに分けることになったとします。
何の権利もないのに住むと不法占有になってしまいますので、居宅の遺産分割をする際には、実際に居住する人が取得するという取り決めがされることが多いです。
しかし、不動産の価値が大きいと、それだけで法定相続分に達し、他の遺産を得られなくなってしまいます。
配偶者としては、慣れ親しんだ家に住み続けるのと同時に、今後の生活資金として預貯金もほしいと望むことも少なくないでしょう。
特に配偶者が高齢の場合には、引越しが身体的・経済的に大きな負担となる一方、自ら働くことが難しく、生活費は遺産に頼らざるを得ないケースも多いと思われます。
そこで、家に関する権利を、使用権とそれ以外の部分とに分けて取得することができるようにしたのが、配偶者居住権の制度です。
使用権のみであれば所有権よりも評価額が低くなりますので、その分だけ預貯金を確保することが可能になります。
配偶者居住権は建物に関する権利ですので、土地に対して成立させることはできません。
もっとも、土地に立ち入らなければ建物を使用収益することはできませんので、権利を行使するのに必要な範囲で敷地を利用することも認められています。
配偶者居住権の制度は2020年4月1日から始まっており、この日以降に相続が発生した場合に適用されます。
配偶者居住権が成立するための要件
配偶者居住権の要件として、次の2つが挙げられます。
- 配偶者が、被相続人が所有する建物に相続開始の時点で住んでいたこと
- 1の建物に関し、配偶者が居住権を取得するという遺産分割がされたこと、 または、配偶者居住権を目的とする遺贈や死因贈与がされたこと
この条件が揃っていれば当然に成立しますので、改めて配偶者居住権を設定するための契約を結ぶ必要はありません。
①配偶者が、被相続人が所有する建物に相続開始の時点で住んでいたこと
配偶者居住権が成立しうる | 配偶者居住権が成立しない |
・店舗兼住宅として使用している ・家の一部を他人に貸している ・配偶者が入院中または介護施設に一時入所中 |
・事実婚のとき ・借家に住んでいたとき |
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①の要件はさらに、㋐配偶者であること、㋑建物を被相続人が所有していたこと、㋒相続の開始時に住んでいたこと、に分けられます。
㋐配偶者は、被相続人と法律上の婚姻関係にあった人に限られ、事実婚のパートナーは含まれません。
また、配偶者居住権は建物を独占的に使用できる権利ですので、他の人の権利が不当に害されないよう、㋑所有者は被相続人自身であったことが必要とされます。
そのため、借家に住んでいた場合や、被相続人が配偶者以外の人と共同で所有していた場合には、配偶者居住権を取得することはできません。
㋒相続の開始時に「住んでいた」とは、生活の本拠として利用していたことを意味しますので、別荘やセカンドハウスに対しては、通常は権利の成立は認められません。
他方、被相続人が亡くなった際に配偶者が病院や介護施設にいた場合でも、将来的には自宅で暮らす予定があったのであれば、配偶者居住権が成立する可能性があります。
②①の建物に関し、配偶者が居住権を取得するという遺産分割がされたこと、 または、配偶者居住権を目的とする遺贈や死因贈与がされたこと
配偶者居住権が成立しうる | 配偶者居住権が成立しない |
・遺贈 ・死因贈与 ・遺産分割 (遺産分割協議、遺産分割調停、遺産分割審判) |
・遺産分割 (特定財産承継遺言) |
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遺贈
遺贈とは、遺言によって無償で財産を譲ることをいいます。
配偶者居住権は遺産そのものではありませんが、制度が始まった2020年4月1日以降に作成された遺言であれば、遺贈によって配偶者に取得させることも可能です。
なお、遺贈は原則として特別受益として扱われ、対象となった財産の価格は、遺産分割の際に受遺者の相続分から控除されます。
特別受益は、特定の相続人が生前贈与や遺贈を受けた場合に、その人の相続分を少なくすることで、相続人間の公平を図る制度です。
ただし、被相続人が、贈与・遺贈した財産を特別受益として扱わないという意思(持戻し免除の意思表示)を示していたときは、相続分から引かれることはありません。
また、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で配偶者居住権の遺贈が行われた場合には、持戻し免除の意思表示があったものと推定されます。
死因贈与
贈与者の死亡を条件として財産を無償で譲ることを、死因贈与といいます。
遺贈は遺言者が単独ですることができますが、死因贈与は契約ですので、被相続人の生前に、財産をもらう人との間で取り決めをしておく必要があります。
口約束でも成立しますが、無用の争いを避けるためにも、これから死因贈与をされる予定の方は、契約書などの書面を残しておかれることをおすすめします。
遺贈の場合と同じく、契約は2020年4月1日以降にされる必要があり、特別受益や持戻し免除の規定が適用されます。
遺産分割協議
遺言書がない場合には、相続人全員による遺産分割によって、誰がどの財産を取得するかを決めます。
まずは相続人間で遺産分割協議が行われることが一般的で、合意に至らないときや話合い自体ができないときは調停・審判に移行します。
遺産分割によって配偶者居住権が設定された場合には、配偶者の相続分の中から取得したものとして扱われます。
遺産分割調停、遺産分割審判
遺産分割審判は、裁判所が強制的に遺産分割の方法や内容を決める手続きです。
協議や調停を行っても話がまとまらない場合になされるものですので、審判に至るまでの過程で、相続人の間に感情的な対立が生じていることも少なくありません。
このような状況で配偶者居住権を設定すると、所有者と配偶者との間で確執が生じ、かえって紛争の解決にならない可能性があります。
そのため、審判によって配偶者居住権を取得することができるのは、他の相続人が反対していないなど、一定の場合に限定されています。
特定財産承継遺言
遺言書でよく見られるのが、「○○(財産)を○○(相続人)に相続させる。」という表現です。
これは特定財産承継遺言と呼ばれ、被相続人が遺産分割の方法を指定したものと考えられています。
先ほどの遺贈とともに、ある財産を特定の人に遺したいときに用いられますが、配偶者居住権に関しては、特定財産承継遺言によって取得させることはできません。
仮に配偶者が権利の取得を望まなかった場合には相続放棄せざるを得ず、すべての遺産を引き継げなくなってしまうためです。
遺贈(特定遺贈の場合) | 特定財産承継遺言 | |
財産を譲る相手 | 相続人以外でもよい | 相続人に限られる |
効力発生時 | 遺言の効力が発生したとき (通常は被相続人の死亡時) |
被相続人の死亡時 |
放棄の方法 | 遺贈の放棄 ・いつでも放棄できる 特に決まった方式はない ・引き継ぐかどうか、個々の財産ごとに決めることができる |
相続放棄 ・被相続人の死亡を知った時から3か月以内に家庭裁判所で ・他の遺産もすべて引き継げなくなる |
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もっとも、遺言書に「配偶者居住権を相続させる」と書いてあるからといって、すぐに無効となるわけではありません。
被相続人としては、配偶者が住み続けられるように願って遺言をしたのですから、その最後の思いを汲んで、基本的には遺贈があったものとして扱うこととされています。
登記手続きについてはあとで詳しく解説しますが、ある遺言が遺贈になるか特定財産承継遺言になるかによって、申請書に記載する登記原因が変わってきます。
配偶者と建物の所有者の法律関係
配偶者居住権は、配偶者自身が住むための権利ですので、他の人に譲渡したり、所有者の承諾なく第三者に利用させたりすることはできません。
承諾が必要な「第三者」には、生活を営むうえで同居することが当然に予定されていると思われる人、例えば身の回りの世話をする人や配偶者の家族は含まれません。
固定資産税や修繕費など、家を維持管理するうえで通常発生する費用は配偶者の負担になります。
実際には、固定資産税は所有者に対して課税されますので、届いた納付書を配偶者に渡して払ってもらうか、または所有者が納税したあとで求償することになると思われます。
配偶者居住権は原則として配偶者が亡くなるまで存続しますが、遺産分割や遺言で期間を決めることもできます。
存続期間の定めがあるときでも、配偶者が死亡した場合には、その時点で権利が消滅します。
配偶者居住権を設定するメリット・デメリット
配偶者居住権を設定するメリット、デメリットは以下の通りです。
メリット
後継遺贈と同じ効果を生じさせることができる
後継遺贈とは、自分の相続についてだけでなく、先々の代まで遺産を譲る人を指定する遺言のことです。
例えば下の図のように、自分の死後は配偶者Bに、Bの死亡後は子Cに取得させるという内容の遺贈がこれにあたります。
しかし、「Bが死亡した後は、Cに相続させる」という部分については、単にAの希望を述べたにすぎず、法的な効力はないと考えられています。
そうすると、Bの死亡後の所有権は、特にBが遺言書を作成していない限り、Bの法定相続人であるDが取得することになります。
家族関係の多様化に伴って再婚家庭や子のいない夫婦が増える中、自分とは縁が遠い人に財産が渡るのを防ぐため、後継遺贈を望むケースも少なくないと思われます。
配偶者居住権の遺贈という形にすれば、配偶者の居住の安定を図りつつ、自分の血縁者に不動産を有効に取得させることができます。
遺産分割の選択肢が広がる
配偶者居住権が作られたことにより、配偶者の生活環境を維持しつつ生活資金も得られるような遺産分割ができる可能性が広がりました。
遺産分割において誰がどのくらい財産を承継するかは、相続人の間で自由に決めることができ、法定相続分はあくまで目安にすぎません。
そのため、全員が納得しているのであれば、特定の人(例えば配偶者)が多く取得するという分割をすることも可能です。
しかし、①では皆の同意が得られず、法定相続分に従って分けなければならないケースもあります。
この場合、今までどおり住み続けられるようにするため、配偶者に家を取得させるという分割内容になることも少なくありません。
ただ、特に物件価格が高い都市部などでは、遺産に占める不動産の割合が高いため、配偶者が十分な生活資金を確保できなくなってしまう可能性があります。
家の所有権を取得した人と何らかの契約を結ぶ方法もありますが、所有者が協力してくれるとは限りません。
契約ができたとしても、賃貸借では賃料の支払いが必要ですし、使用貸借で不動産が他の人に譲渡された場合には、新たな所有者に対しては権利を主張することができなくなります。
現物分割が難しい場合には、代償分割や換価分割の方法がとられます。
しかし、代償分割は配偶者自身の財産から支払うため生活資金が減ってしまいますし、換価分割の場合には自宅を手放さなければなりません。
そこで、今までのやり方では十分な満足を得られなかった人のために、新たな遺産分割の手段として加えられたのが配偶者居住権の制度です。
選択肢が増え、より柔軟な遺産分割ができるようになりましたが、他の分割方法にそれぞれ不向きなケースがあるのと同じく、配偶者居住権の設定にもデメリットがあります。
デメリット
- 売却したり、担保に入れて融資を受けたりすることが難しい
- 配偶者の年齢によっては、配偶者居住権の評価額が高くなる
売却・担保権設定が難しい
配偶者居住権が設定された不動産は、所有者にとっては扱いづらい物件といえます。
所有者自身には利用権がなく、使用の対価を受け取ることもできず、また、原則として配偶者が亡くなるまで存続するため、いつまでこの状態が続くのかもわからないためです。
ずっと配偶者が住み続けるのであれば問題は少ないかもしれませんが、入院や介護施設への入所が必要になってしまうことも考えられます。
配偶者が住まなくなったからといって所有者自身が利用できるようになるわけではなく、他に同居している人がいなければ、空家状態になってしまいます。
入院費や介護費用を捻出するために不動産を処分しようにも、配偶者居住権の負担がついた物件の買い手を見つけるのは容易ではありません。
担保としての価値も低く評価され、十分な額の融資を受けることができない可能性もあります。
合意や放棄によって配偶者居住権を消滅させることは可能ですが、配偶者の認知能力が衰えてしまうと、この方法をとることも困難です。
配偶者の年齢によっては、配偶者居住権の評価額が高くなる
遺産分割で配偶者居住権を取得する場合、配偶者は自分の相続分として権利を得ることになります。
権利の存続期間が長くなるほど配偶者居住権の評価額も高くなるため、配偶者の年齢によっては、他の遺産の取り分が少なくなってしまいます。
配偶者居住権の評価方法
上のようなケースでは、まず権利の価格を算定したうえで、配偶者居住権を取得すべきかどうかの判断をする必要があります。
他にも、遺留分の算定や相続税の申告などのために、配偶者居住権の価格の算出が求められる場合があります。
財産的な価値の評価方法
遺産分割や遺留分算定の際に用いる計算方法はいくつかあり、状況に合った方式を使うことができます。
例えば、裁判所における遺産分割審判など、正確な計算が必要な場合には、専門家の鑑定評価に基づいて判断をすることになると思われます。
一方、遺産分割協議で相続人全員の同意があるのであれば、専門家に依頼することなく、固定資産評価額などの税制上の価格を利用して計算することも可能です。
また、特に金額を気にせずに協議をするケースなど、配偶者居住権の価格を算出しなくても遺産分割ができるときもあります。
相続税算出のための評価額
相続税を算出するときの評価方法は、国税庁のホームページに掲載されています。
参考:配偶者居住権等の評価
なお、相続税の節税効果が高いとされる小規模宅地の特例ですが、これはあくまで土地に関する制度ですので、配偶者居住権については適用されません。
ただし、配偶者は居住に必要な限度で土地を使用することができ、この敷地利用権については特例の適用を受けられる可能性があります。
配偶者居住権の登記の要否
配偶者居住権は一定の条件を満たせば当然に成立する権利ですが、それを当事者以外の第三者に対しても主張するためには、登記を経る必要があります。
この登記は原則として共同して申請することが必要で、建物の所有者には登記手続きをする義務が課されています。
なお、仮に所有者が手続きに協力しない場合、登記義務の履行を求める訴えを提起して勝訴判決を得れば、配偶者が単独で申請することができます。
登記簿上の所有者に相続が発生していますので、②配偶者居住権の登記をする前提として、①新たな所有者への名義変更登記手続きもする必要があります。
申請書の記載内容や添付書類は、どのような理由で配偶者居住権を取得したかによって変わってきます。
前提として必要となる相続登記(被相続人から新所有者への所有権移転登記)について詳しく知りたい方は『相続登記とは?亡くなった人の不動産の名義変更について法改正点も含め解説』をご覧ください。
遺産分割協議により取得した場合
遺産分割協議が成立すると、不動産に関してはCのみが相続人であったという扱いになりますので、CはAの死亡時にその所有権を取得します。
これに対し、配偶者居住権は遺産分割によって初めて成立する権利で、Aから相続するものではありませんので、Bが権利者となるのは協議が整ったときです。
相続による所有権移転登記
(申請書例)
※1 原因
Cが相続によって所有権を取得した旨と、権利者となった日を記載します。
遺産分割の効果は相続の開始時に遡って生じますので、協議が成立した日ではなく、被相続人Aが死亡した日が原因日になります。
※2 申請人
新たに所有者となったCの住所、氏名、連絡先を記載し、印鑑(認印可)を押します。
遺産分割で権利を取得しなかったBとDは、申請人にはなりません。
※3 添付書類
添付書類名 | 具体的な書類 |
登記原因証明情報 | ㋐Aの出生から死亡まですべての戸籍・除籍・改製原戸籍謄本 ㋑BCDの戸籍謄本(抄本) ㋒Aの住民票除票、戸籍の附票など ㋓遺産分割協議書(BCDの印鑑証明書つき) |
住所証明情報 | ㋔Cの住民票、戸籍の附票、印鑑証明書など |
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㋐㋑㋒㋔に代えて、本籍地や住所が記載された法定相続情報を使用することもできます。
※4 課税価格
土地と建物の固定資産税評価額の合計(1、000円未満切り捨て)を記載します。
評価額は、Aが死亡した年ではなく、登記を申請する年度のものが必要です。
※5 登録免許税
相続を原因とする所有権移転登記の登録免許税は、(課税価格)×(0.4%)で算出します(100円未満切り捨て)。
(登記記録例)
配偶者居住権設定登記
(申請書例)
※1 原因
Bは遺産分割によって配偶者居住権を取得しましたので、原因は「遺産分割」、日付は協議が成立した日になります。
※2 存続期間
配偶者居住権の設定の登記においては、必ず存続期間の定めが記録されます。
特に期間を決めていない場合でも省略することはできず、「(令和〇年〇月〇日から)配偶者居住権者の死亡時まで」のように申請書に記載します。
なお、遺産分割の日は、登記原因の部分を見ればわかります。
そのため、協議の成立日から期間が始まる場合には、存続期間のところで改めて開始日を書かなくても問題ありません。
※3 特約
権利者が第三者に居住建物の使用又は収益をさせることを認めるという取り決めがある場合に記載します。
先ほどの存続期間の定めとは違い、特約がないときは申請書に記載する必要はありません。
※4 権利者、義務者
配偶者居住権を取得したBを権利者、居住建物の所有者Cを義務者として、それぞれの住所、氏名、電話番号を記載します。
氏名の横に押す印鑑は、Bは認印でも問題ありませんが、Cは実印が必要です。
※5 添付情報
添付書類名 | 具体的な書類 |
登記識別情報 | ㋐相続による所有権移転登記の際に、Cに対して発行されたもの |
登記原因証明情報 | ㋑Aの出生から死亡まですべての戸籍・除籍・改製原戸籍謄本 ㋒BCDの戸籍謄本(抄本) ㋓遺産分割協議書(BCDの印鑑証明書つき) |
印鑑証明書 | ㋔Cのもの、申請前3か月以内 |
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②配偶者居住権の設定の登記は、①相続による所有権移転登記と連件で申請されることも多いと思われます。
この場合、②で提供すべき登記識別情報は①で初めて発行されるため申請者の手元にはありませんが、法務局の方で、②の際に提供があったものとして処理してくれます。
※6 課税価格
登記を申請する年度の、建物の固定資産評価額を記載します(1,000円未満切り捨て)。
※7 登録免許税
配偶者居住権の設定の登記の登録免許税は、(課税価格)×(0.2%)で計算します(100円未満切り捨て)。
(登記記録例)
遺贈によって取得した場合
(事例)
遺言書に特に記載がない限り、遺贈の効力は遺言者Aが死亡したときに生じ、その時からEは所有権者、Bは配偶者居住権者になります。
遺贈による所有権移転登記
(申請書例)
※1 原因
原因は「遺贈」、日付は遺贈の効力が生じた日(通常はAが死亡した日)を記載します。
※2 申請人
遺贈を原因として相続人以外の人に対し所有権を移転する場合には、権利者と義務者が共同で登記を申請しなければなりません。
形式的にはAが義務者ですが、亡くなった人は申請人にはなれませんので、遺言者の相続人全員または遺言執行者が代わりに手続きを行います。
BCDは実印を申請書に押す必要がありますが、権利者Eは認印でも問題ありません。
※3 添付書類
添付書類名 | 具体的な書類 |
登記識別情報(登記済権利証) | ㋐Aが不動産を取得したときのもの |
登記原因証明情報 | ㋑遺言書 法務局保管制度を利用していない自筆証書遺言の場合には、家庭裁判所の検認済証明書も必要 ㋒遺言者の死亡を証する戸籍謄本(抄本) |
住所証明情報 | ㋓Eの住民票、戸籍の附票、印鑑証明書など |
印鑑証明書 | ㋔BCDのもの、申請前3か月以内 |
相続証明情報 | ㋕Aの出生から死亡まですべての戸籍・除籍・改製原戸籍謄本 ㋖BCDの戸籍謄本(抄本) |
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㋒㋕㋖の代わりに法定相続情報を添付することもできます。
※4 課税価格
登記を申請する年度の、土地と建物の固定資産評価額の合計額を記載します(1、000円未満切り捨て)。
※5 登録免許税
遺贈を原因とする所有権移転登記の登録免許税は、権利者となるのが相続人かそれ以外の人かによって変わってきます。
権利者が相続人の場合の税率は0.4%、相続人以外の人の場合は2.0%です。
(登記記録例)
配偶者居住権設定登記
(申請書例)
※1 原因
原因を「遺贈」とし、効力発生に関し条件がない限り、Aの死亡日を記載します。
遺言書の記載が配偶者居住権を「相続させる」となっている場合でも、通常は遺贈の趣旨として登記の審査が進められます。
※2 存続期間
存続期間が決められている場合には、「令和〇年〇月〇日から〇年(令和〇年〇月〇日まで)又は配偶者の死亡時までのうち、いずれか短い期間」のように書きます。
※3 権利者、義務者
権利者Bは認印または実印を、義務者Eは実印を押します。
※4 添付情報
添付書類名 | 具体的な書類 |
登記識別情報 | ㋐遺贈による所有権移転登記の際に、Eに対して発行されたもの (連件で申請する場合は添付したものとみなされる) |
登記原因証明情報 | ㋑遺言書 法務局保管制度を利用していない自筆証書遺言の場合には、家庭裁判所の検認済証明書も必要 ㋒遺言者の死亡を証する戸籍謄本(抄本) |
印鑑証明書 | ㋓Eのもの、申請前3か月以内 |
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①Eへの所有権移転登記と②配偶者居住権の設定の登記を連件で申請する場合には、㋐遺言書と㋑戸籍は、同じものを使い回すことができます。
報告形式の登記原因証明情報でも手続きができますが、①と連件申請にしないときは、㋐遺言書と㋑戸籍の添付も必要です。
※5 課税価格、登録免許税
原因にかかわらず、配偶者居住権を設定する場合には、登録免許税の税率は課税価格の0.2%になります。
(登記記録例)
配偶者居住権の移転登記
配偶者居住権は、配偶者だけが行使することができる権利です。
他の人に譲渡することはできませんし、配偶者が死亡すれば消滅し相続の対象にはなりませんので、「配偶者居住権の移転」という登記手続きをすることはありません。
配偶者居住権の変更登記
変更登記が必要になるケースとしては、例えば存続期間を短縮する場合が考えられます。
一方で、期間に応じて価格を評価したうえで権利を設定しているため、その後に存続期間を延長したり更新したりすることはできません。
配偶者居住権の変更登記は、所有者と配偶者との共同申請になります。
配偶者居住権の抹消登記
権利が消滅する原因としては、次の4つが挙げられます。
①配偶者が死亡したとき
②存続期間が満了したとき
③配偶者の義務違反があり、所有者から消滅請求がされたとき
④権利の対象となる建物が物理的に存在しなくなったとき
②③④の場合には、所有者と配偶者が共同で申請手続きを行います。
①配偶者の死亡を理由として抹消するときは、所有者が単独で申請することができます。
配偶者短期居住権
ここまで解説してきた配偶者居住権は、被相続人の死亡後も配偶者が自宅に住み続けることができるようにするための権利でした。
これとは別に、配偶者が転居することを前提としつつ、明渡しの猶予期間を確保するための制度として、2020年4月1日から「配偶者短期居住権」の運用も始まっています。
遺産分割前の遺産は相続人全員の共有財産ですので、配偶者のみが家を利用している場合には、他の共有者に対して使用料を払わなければならなくなる可能性があります。
また、配偶者が相続放棄をしたときや、遺贈や死因贈与により他の人が家を取得したときには、本来であれば、占有権原がない配偶者は直ちに退去しなければならないはずです。
しかし、人の死期は予測できませんし、相続が発生したあとは葬儀の手配や各種の届出・申請などに追われ、引越しの準備をする余裕がないことも少なくありません。
そこで、配偶者の負担に配慮し、急な転居をしなくても済むよう、配偶者短期居住権の制度が作られました。
被相続人や所有者の意思に関係なく、一定の要件を満たした場合には強制的に成立する権利で、相続の開始から少なくとも6か月間は無償で住み続けることができます。
配偶者居住権と大きく異なるのは、次の2点です。
- 遺産分割の際、相続分から控除されることはない
- 登記することができない
配偶者短期居住権は明渡しの猶予という意味合いが強く、財産的価値のある権利として取得するものではありません。
そのため、配偶者短期居住権に基づいて住み続けた場合でも、遺産分割において考慮する必要はなく、配偶者の相続分が減ることはありません。
また、登記をすることは認められていないため、所有権を取得した人から第三者に建物が譲渡された場合には、配偶者短期居住権を主張することはできなくなります。
要件
配偶者短期居住権は、「配偶者が、被相続人が所有する建物に、相続開始の時点で無償で住んでいた」場合に成立します。
配偶者居住権の成立要件の一つと似ていますが、配偶者短期居住権では「無償で」居住していたことも求められます。
有償で使用していたのであれば何らかの契約関係があり、これに基づいて被相続人の死後も住み続けられると考えられるためです。
一時的な入院や施設への入所でも権利が発生しうる点は配偶者居住権と同じで、被相続人の承諾なく住んでいたときや別居していたときでも、取得することができます。
また、被相続人が配偶者以外の人と建物を共有していた場合でも成立しますが、この場合には、持分を取得した者に対してのみ、権利を主張することが可能です。
なお、配偶者が相続欠格事由に該当したり廃除されたりした場合には、保護する必要性は低いと思われるため、権利は成立しません。
猶予までの期間
存続期間は、配偶者が遺産について共有持分を持っているか否かで変わってきます。
要件
より強力な権利である配偶者居住権が設定された場合には、その時点で配偶者短期居住権は消滅します。
配偶者居住権を取得しなかった場合には、遺産分割が確定した日または被相続人の死亡から6か月を経過した日、どちらか遅い日までが猶予期間となります。
猶予までの期間
新たに建物の所有権を取得した人が配偶者短期居住権の消滅の申入れをすると、そこから6か月を経過する日に権利が消滅します。
配偶者居住権の登記は自分で出来る?
最後に、配偶者居住権に関する手続きを検討されている方へのご案内です。
配偶者居住権に限らず、登記の申請や相続税の申告は、すべてご自身で手続きを行うことができます。
とはいえ、専門的な知識が必要な部分もありますので、一から調べるとなると時間も手間もかかってしまう可能性があります。
特に配偶者居住権は作られて間もない制度ですので、参考となる資料や前例が少ないのが現状です。
手続きをスムーズに進めるためにも、いちど司法書士に相談されてみてはいかがでしょうか。
配偶者居住権についての相談先
相談先としては、司法書士、弁護士、税理士などが挙げられます。
配偶者居住権の評価額の計算は複雑ですので、相続税の申告などのために正確な価格を調べたい方は、まずは税理士に相談されることをおすすめします。
すでに相続人全員が合意しているときは、司法書士にご依頼いただくと、相続手続きから配偶者居住権の設定登記まで、手続きをスムーズに進めることができます。
どのような形で遺産を承継したいか、ご自身の状況にあった専門家に相談してみてください。
この記事の執筆者
-
東京司法書士会所属 登録番号7208号
東京都行政書士会所属 登録番号第19082417号
司法書士法人リーガル・ソリューション 代表司法書士
行政書士事務所リーガル・ソリューション 代表行政書士
前職の不動産仲介営業マン時代に司法書士試験合格。
都内の司法書士法人に転職し経験を積んだ後、司法書士法人リーガル・ソリューションを設立、同社代表社員就任。
開業以来、遺産相続、不動産登記手続き、不動産に関する紛争の解決(立ち退き、賃貸トラブル、共有物分割請求、時効取得等)に特化。
保有資格は、司法書士、行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者、競売不動産取扱主任者。
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