更新日:2022-02-15
『相続登記と相続税の関連性について知りたい』
『相続登記をしない場合でも相続税はかかるのかな』
この記事はそのような方向けに書いています。
こんにちは、司法書士の樋口です。
私は東京都新宿区に本社を構える司法書士法人リーガル・ソリューションの代表司法書士で、相続、不動産登記、不動産に関する訴訟手続きをメインに取り扱っています。
不動産を相続した方で相続税の心配をされる方もいらっしゃるかと思います。
相続登記をしたことで相続税が課税されてしまったら大変ですよね。
結論としましては、相続登記をしたからといって相続税がかかるということはありません。
相続登記は令和6年4月1日に義務化されるため、速やかに相続登記の手続きを行いましょう。
この記事では、相続税についての基礎知識を解説するとともに、特に不動産を相続する場合の相続税について解説しています。
相続税がかかる可能性がある方や相続税がかかる方にとって知っておいたほうが良い知識もありますので、よろしければ最後までお読みください。
相続登記の全体について詳しく知りたい方は『相続登記とは?亡くなった人の不動産の名義変更について法改正点も含め解説』をご覧ください。
相続税とは?
相続税とは、相続や遺贈によって取得した財産が一定額(基礎控除額)を超える場合に課される税金です。
相続税がかかるのか、かかる場合にはどの程度相続税が課税されるのか計算するためには、㋐課税価格の総額、㋑基礎控除額を算出する必要があります。
㋐課税価格の総額
大まかに言うと、(プラスの財産:不動産、預貯金など)-(マイナスの財産:借金、葬儀費用など)
㋑基礎控除額
(平成27年1月1日以降に相続が開始した場合) (3,000万円)+(600万円)×(法定相続人の数)
【㋐よりも㋑のほうが多いとき】
⇒ 相続税は課税されず、税務署への申告も不要
【㋐よりも㋑のほうが少ないとき】
⇒ 相続の開始を知った日から10か月の期限内に、相続税の申告と、相続税の納付が必要
申告書の提出先や納税先は、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署です。
納税は現金一括払いが原則です。
実際の納税金額がいくらになるかは、次の①~③の順番で計算していきます。
①課税遺産総額の計算
大まかに言うと、プラスの財産からマイナスの財産を引いた金額になります。
➁相続税の総額の計算
各相続人が法定相続分どおりに遺産をもらったものと仮定し、それぞれの取得金額に一定の税率をかけます。
算出された金額を合計し、その後、実際に各相続人が取得する割合で按分します。
③各相続人の税額の計算
相続人が配偶者、未成年者、障害者などにあたるときは、税額の控除を受けることができます。
一方、配偶者・父母・子以外の人が相続人になるときは、原則として税額が20%加算されます。
例えば、課税価格が1億円のAの遺産を、遺産分割協議の結果、配偶者Bが6,000万円、子Cが2,000万円、子Dが2,000万円ずつ取得する場合、相続税は次のようにして算出していきます。
※配偶者控除については後ほど詳しく解説します。
土地建物、マンションの評価方法
遺産の中に不動産がある場合には、その価値を金銭的に評価して課税遺産総額(上の表の①の部分)を算出します。
遺産の評価方法など相続税に関する計算については、統一的な取り扱いがされるよう、国税庁の「財産評価基本通達」に細かく定められています。
㋐土地の価格
⇒ 路線価がある場合は、(路線価)×(土地面積)×(補正率・加算率)
路線価がない場合は、(宅地の固定資産評価額) × (地域ごとに定められている倍率)
㋑建物(戸建て)の価格
⇒ 市区町村が定める固定資産評価額
㋒マンションの価格
⇒(㋐で算出した金額)×(敷地権割合)+(住戸部分の固定資産評価額)
路線価とは、不特定多数の人が通行する道路に面している宅地の、1㎡当たりの標準的な評価額のことをいいます。
基本的には(路線価)×(土地面積)で土地の価格を出しますが、間口が狭かったり、いびつな形だったりすると土地の利用価値が低くなるため、評価額の調整(補正)をします。
路線価や補正率などは、国税庁のホームページに掲載されています。
相続税の税率
法定相続分どおりの取得金額にかける税率(先の図の②の部分)は、次の表のとおりです(平成27年1月1日以降に相続が発生した場合)。
各相続人の、法定相続分どおりの取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | なし |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
(スマホでは右にスクロールできます)
例えば、取得金額が2,600万円の場合には、(2,600万円)×(税率15%)-(控除額50万円)=(340万円)になります。
特例措置
先述した通り相続税は、現金一括払いで納付するのが原則です。
しかし、遺産の中に不動産がある場合には、課税価格が高額になる一方、すぐには換金できないため、手持ちの現金では納税が困難になるケースも見られます。
中には、税金を支払うために、相続した財産を手放さなければならない、相続人の今後の生活が困難になる、といったケースも見られます。
このような事態を避けるため、相続税には様々な控除や特例の措置が定められています。
特に大幅な減額がされる可能性がある措置として、次の2つが挙げられます。
- 小規模宅地等の特例
- 配偶者控除
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、被相続人が居住や事業に供していた土地について、一定額を相続税の算出の根拠となる課税価格から控除することができるというものです。
評価額を最大で80%減額することができるため、課税価格が大幅に減り、場合によっては相続税がかからなくなる可能性があります。
被相続人が土地をどのように利用していたか、誰が不動産を取得したかなどにより、適用の条件が細かく分かれています。
ここでは、被相続人が自己名義の土地を居住用として利用していた場合について説明します。
㋐被相続人が、自己の住居の敷地として土地を利用していたこと
㋑不動産を取得した人が、取得者ごとに定められた条件を満たしていること
上の㋐㋑に該当するときは、土地のうち330 ㎡までの部分について、評価額が80%減額となります。
㋐について
近年では、被相続人が入院していたり施設に入所していたりして、亡くなる前は自宅で暮らしていないというケースも少なくありません。
このような場合でも、
入院の場合 | 入院期間の長短にかかわらず、適用対象となる。 |
施設入所の場合 | 以下の各条件に該当する場合には、適用対象となる。 ・被相続人が、相続開始の直前において介護保険法等に規定する要介護認定等を受けていたこと ・被相続人が老人福祉法等に規定する施設(老人ホーム、介護保険施設、サービス付き高齢者向け住宅など)に入居または入所していたこと |
(スマホでは右にスクロールできます)
㋑について
取得者ごとの要件は、次のとおりです。
配偶者 | 無条件に適用を受けられる |
同居の親族 | 相続税の申告期限まで、土地を所有し、かつその上の建物に居住していること |
同居していない親族 | 相続開始前3年以内に、自分(取得者)や配偶者名義などの家に住んだことがなく、申告期限までにその宅地を所有していること |
(スマホでは右にスクロールできます)
特例の適用を受けるためには、相続税の申告をする必要があります。
申告書には、この特例を受けようとする旨を記載し、また、小規模宅地等に係る計算の明細書や遺産分割協議書の写しなど一定の書類を添付しなければなりません。
配偶者控除
配偶者が取得した遺産の額が、次の㋐㋑どちらかの金額以下の場合には、配偶者については相続税が非課税となります。
㋐1億6,000万円
㋑配偶者の法定相続分の範囲内
遺産があまり多くない場合には、配偶者控除を利用することで納税額を0円にすることも可能です。
ただし、税負担が軽くなるからといって配偶者にすべて取得させると、次の相続の負担が重くなる可能性があります。
配偶者控除の適用を受けるためには、相続税の申告をする必要があります。
控除によって納付額が0円になったり、基礎控除額を下回ったりすることになった場合でも、申告を省略することはできません。
また、配偶者が実際に取得した金額をもとに控除がされるため、相続税の申告期限までに遺産分割が成立していなければ、適用を受けることができません。
ただし、申告期限後3年以内に遺産分割が成立する見込みがある場合には、その旨の見込書を提出することができます。
実際に3年以内に遺産分割が行われた場合には、本来配偶者控除によって軽減されたはずの税額相当分の還付を受けることができます。
関連記事:やり直し出来る?遺産分割による相続登記(不動産の名義変更)について解説
相続登記(名義変更)をしない場合でも相続税はかかる?
遺産の中に不動産がある場合には、その名義変更(相続登記)の手続きも必要になります。
相続登記の際にも税金が課されますが、ここで納めるのは登録免許税というもので、相続税とは別の税金です。
相続登記と相続税の申告には直接の関係はありませんので、相続登記の手続きをしていなくても、相続税の支払いを免れることはできません。
10か月の期限内に相続税の納付をしなかった場合には、延滞税や加算税が課される可能性があります。
なお、相続登記についても、令和6年4月1日から義務化されることになっています。
関連記事:相続登記が義務化|義務化された背景やその他の改正についても解説
相続の順番
では、相続税の申告と相続登記とは、どちらから手続きをしたらいいのでしょうか。
手続の順番に関しては特に決まっていませんので、どちらが先でも問題ありません。
大まかには、次の順番で手続きを進めていきます。
①相続人の確認
②遺言書の有無の確認
③遺産と債務の調査
④遺産の評価
⑤遺産分割
⑥申告・納税、相続登記
ただし、一定の期間内にしなければならない手続きもあります。
通常は、被相続人が亡くなったことは、その日のうちに相続人が知ることになると思われますので、起算点は被相続人の死亡日になります。
例えば、被相続人が令和4年1月24日に亡くなった場合、相続税の申告は令和4年11月24日までに、相続登記の申請は令和7年1月24日までに行う必要があります。
相続税の申告 | 相続登記 | |
期限 | 通常は、被相続人が亡くなった日から10か月以内 | 通常は、被相続人が亡くなった日から3年以内 |
申告・申請先 | 被相続人の住所地を管轄する税務署 | 不動産の所在地を管轄する法務局 |
期限を経過した場合 | 延滞税、加算税が課される可能性あり | 10万円以下の過料が科される可能性あり |
代理できる専門家 | 税理士、弁護士 | 司法書士、弁護士 |
基本的な必要書類 | ①被相続人の出生から死亡まで、すべての戸籍・除籍・原戸籍謄本 または 図形式の法定相続情報一覧図の写し ②被相続人の住民票の除票・戸籍の附票 ③相続人全員の戸籍謄本 ④相続人の住民票・戸籍の附票 ⑤遺産分割協議書(相続人全員の印鑑証明書つき) |
①被相続人の出生から死亡まで、すべての戸籍・除籍・原戸籍謄本 または法定相続情報一覧図の写し ②被相続人の住民票の除票・戸籍の附票 ③相続人全員の戸籍謄本 ④相続人の住民票・戸籍の附票 ⑤遺産分割協議書(相続人全員の印鑑証明書つき) |
(スマホでは右にスクロールできます)
相続税の申告と相続登記とでは、共通する提出書類が多くあります。
前者の場合、戸籍や住民票はコピーでも問題ありませんが、印鑑証明書は原本の提出が必要で、手続きが終わっても返却されません。
一方、相続登記については、添付書類は原本を提出しなければなりませんが、審査が終わったあとには全部返してもらうことができます。
そのため、相続税の申告を先にする場合には、申告用と名義変更用とで最低2通の印鑑証明書が必要ですが、相続登記から手続きをすると、使い回すことができます。
また、法定相続情報一覧図の申出と相続登記の申請とは、同時に手続きをすることができます。
法定相続情報を取得したい場合には、相続登記の申請から行うと、効率よく手続きを進めることができます。
この記事の執筆者

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東京司法書士会所属 登録番号7208号
東京都行政書士会所属 登録番号第19082417号
司法書士法人リーガル・ソリューション 代表司法書士
行政書士事務所リーガル・ソリューション 代表行政書士
前職の不動産仲介営業マン時代に司法書士試験合格。
都内の司法書士法人に転職し経験を積んだ後、司法書士法人リーガル・ソリューションを設立、同社代表社員就任。
開業以来、遺産相続、不動産登記手続き、不動産に関する紛争の解決(立ち退き、賃貸トラブル、共有物分割請求、時効取得等)に特化。
保有資格は、司法書士、行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者、競売不動産取扱主任者。
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