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司法書士法人・行政書士事務所リーガル・ソリューションは、東京都新宿区にある司法書士・行政書士事務所です。

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時効取得は難しい?不動産の時効取得について徹底解説

更新日:2023-09-21
自宅の登記簿を取ったら自分の名義ではなかった
時効取得は難しいと聞いたことがあるけど詳しく知りたい

この記事はそのような方向けに書いています。   

こんにちは、司法書士、行政書士の樋口です。  

私は東京都新宿区に本社を構える司法書士法人リーガル・ソリューションの代表司法書士で、相続、不動産登記、不動産に関する訴訟手続きをメインに取り扱っています。 

占有を開始してから10年若しくは20年が経過すると、占有している人が所有権を取得することが出来る場合があります

これを『時効取得』といいますが、時効取得を相手方に主張するには、時効の援用手続きが必要です。

時効の援用後もなお相手方が手続きに応じない場合には、裁判手続きを経て登記名義を変更することが可能になります

この記事では、時効取得の基礎知識から要件、実際に時効取得する場合の手続きの流れ等、図解を交えて誰にでもわかるよう詳しく解説しています。 

不動産の時効取得を検討されている方の参考になるかと思いますので、よろしければ最後までご覧ください。

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時効取得とは

壁掛け時計

一定の期間、ある事実状態が続いた場合に、その状態に合った法律関係が存在するものとして扱う制度のことを時効といいます。

時効には、取得時効と消滅時効の2つがあります。

取得時効 ある状態が一定期間続いたときは、その状態に即した権利を取得できるという制度
消滅時効 権利が行使されないまま一定期間が経過したときに、その権利の消滅を認める制度

(スマホでは右にスクロールできます)

例えば、Aの所有する土地を利用しているBが、法律で決められている取得時効の要件を満たしたときは、この物件の所有権を得ることができます。

時効取得の概要

といっても、他人の財産を奪うことを容認するような制度ではありません。

時効制度の存在理由としては、主に次の3つがあると言われています。

  • 長期間にわたり続いている事実状態を尊重する
  • 権利の上に眠る者は保護に値しない
  • 証明の困難を救済する

例えば先ほどの図で、Bが土地を支配している状態が長く続くと、世間の人もそれを信頼し、Bを所有者として取引をするようになることがあります。

このような場合には、Bが真の権利者ではないからといって取引を覆すよりも、今ある状態を法的に保護したほうが、社会的・経済的なメリットが大きいと考えられます。

真の所有者Aにとっては酷かもしれませんが、今までBによる利用に異義を唱えることがなかったのであれば、築かれてきた事実状態を優先したとしても、やむを得ないといえます。

また、全く無関係の土地を勝手に使い始める人はあまりおらず、BがAから口約束で贈与を受けたなど、何らかの根拠があることが通常です。

契約書等の証拠が残っていないために権利を取得したことを証明できないでいるというケースも少なからずありますので、このような人たちを救済する手段が必要です。

なお、Bが土地を利用している場合のように、社会通念上、ある物を現実に支配していると認められる状態のことを「占有」といいます。

(占有が認められる例)

占有が認められる例

物を所持しているという事実状態に着目していますので、売買や賃貸借といった取引行為によらなくても、占有を取得することができます。

時効取得できる権利とできない権利

〇と×の記号の間にクエスチョンマーク複数

取得時効によって権利を得ることを「時効取得」といい、所有権以外の権利もその対象になります

時効取得できる権利 所有権、地上権、地役権、永小作権、賃借権など
時効取得できない権利 抵当権、留置権、先取特権、取消権、解除権など

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占有する物は動産でも不動産でもいいのですが、取得に必要な要件がそれぞれ違います。

ここからは、時効によって不動産の所有権を取得する場合を想定して、その要件や手続きについて解説をしていきます。

取得時効の要件

机の上のメモ帳とボールペン

10年の場合(短期取得時効) 20年の場合(長期取得時効)
10年間 20年間
②所有の意思をもって ②所有の意思をもって
③平穏に、かつ公然と ③平穏に、かつ公然と
④対象物を継続して占有したこと ④対象物を継続して占有したこと
占有開始時に善意無過失であること

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これらの要件を満たすかどうか、関係者からの聴取や資料の調査などにより判断します。

しかし、占有が始まってから長期間が経過しているため、記憶が曖昧だったり書類が紛失していたりして、確認が困難なことも少なくありません。

そこで、当事者の負担を軽減するため、民法に推定規定が設けられています

民法第186条
占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
2 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。

これにより、②「所有の意思をもって」、③「平穏に、かつ公然と」、④「継続して占有した」、⑤「善意」が推定されることになります。

それぞれの要件について、もう少し細かく見ていきます。

所有の意思をもって

所有の意思の推定

自分のものにする意思(所有の意思)をもってする占有を「自主占有」、それ以外の占有を「他主占有」といいます。

所有の意思の有無は、実際に占有者がどう思っていたかではなく、占有が始まった際の事情を見て客観的に判断されます

例えば、賃貸借契約は物の貸し借りに関する契約ですので、賃貸物件の借主は、他人の所有物であることを前提に入居しているといえます。

そのため、仮に自分のものにする意図で居住を始めたとしても他主占有となり、時効取得は認められません。

平穏に、かつ公然と

平穏公然の例

「平穏」とは、占有を取得・維持するにあたり、暴行や強迫などの不法な行為を用いていないことです。

また、「公然」は、ことさら外部に隠すことなく占有を開始・継続している状態を指します。

占有を始めた時に平穏・公然であるだけでは足りず、時効取得に必要な期間中、その状況が維持されていなければなりません。

継続して占有

占有の継続と推定規定

④「継続して占有」とは、○年○月○日○時○分○秒、次の瞬間、その次の瞬間…と絶え間なく占有していたことを意味しますが、これを一つ一つ証明することは不可能です。

そこで、初めと終わりの時点についての証明があれば、その間の占有に関しては継続していたものと推定する、と規定されています。

前後の両時点における占有

一方、前後の両時点(上の図の㋐と㋑の時点)で占有していた事実は推定されませんので、時効取得を主張する人が自分で証明する必要があります。

起算点は占有を開始した時と決められており、自分に都合の良い時点を選ぶことはできません

善意無過失

善意と無過失の推定規定の有無

ある物が自分の所有物であると信じることを「善意」、自己の所有物だと信じたことについて過失がない状態を「無過失」といいます。

過失とは、人並みの注意をすれば自分に所有権はないとわかったはずなのに、それができなかったことを指します。

例えば、農地について売買をするときは、農地法所定の許可や届出がない限り、代金を払っても所有権は移転しません。

許可や届出は買主も関与すべき手続きですので、これを行っていないのであれば、通常は過失があると判断されてしまいます。

なお、自分の所有物ではないと知っていたり(悪意)、過失があったりしたとしても、時効取得ができなくなるとは限りません。

10年の短期取得時効は認められませんが、20年間の占有その他の要件を満たしているのであれば、所有権の取得は可能です。

取得時効の効果

アップ、上がる、折れ線、矢印、モルタル

時効の効果は、要件を満たせば自動的に生じるというものではなく、別途、「時効の援用」という行為があって初めて所有権を取得できるとされています。

援用とは、時効によって利益を受ける人が、その恩恵を享受したいという意思を相手方に対して伝えることです。

取得時効が援用されると起算日に遡って効果が生じ、その時から時効取得者が不動産の所有者であったと扱われます。

取得時効の援用と効果

所有権を原始取得

時効による所有権の取得は、原始取得だと考えられています。

売買や相続のように前の所有者から権利を引き継ぐのではなく、誰の所有にも属さない物を取得するような感覚です。

同じ不動産の上に2つ以上の所有権が併存することはありませんので、時効取得がされたときは、その裏返しとして元の所有者の権利が消滅します。

抵当権等の所有権以外の権利の消滅

時効取得に伴う権利の消滅

Aが所有権を失う結果、Aに権利があることを前提として成立した法律関係もまた消滅することになります。

上の事例でいうと、Cの抵当権は所有者Aとの契約に基づいて設定されており、当時の権利関係に照らせば有効に成立しています。

しかし、BC間の抵当権設定契約はありませんので、時効の効果によりBが所有者になると、Cの抵当権も成立しなかったものとして扱われます

時効取得の手続きの流れ

チェックリスト(パソコンとノート)

取得時効の要件を満たしているか確認

時効取得の手続きの流れ

まずは、取得時効の要件をすべて満たしているかどうかを判断します。

なお、民法第186条による「推定」は「みなす」という意味ではありませんので、推定を覆すような事情があれば時効は成立しません

占有者にとっては不利になるかもしれない事情も含め、細かく事実を確認していく必要があります。

相手方である登記名義人を確認

時効を完成させるためには援用の意思表示をしなければなりませんし、権利の取得を第三者に対しても主張するためには、登記の名義変更が必要です。

援用や登記手続きの相手方となる人を特定するために登記簿を調べ、手紙を送るなどして連絡を試みます。

しかし、他人に占有され続けても異議を述べずにいたのにはそれなりの理由があることも多く、相手方の確定の段階で、しばしば問題が生じます

登記名義人、相手方の確認

意思能力がない

相手方には、時効取得により権利を失うという重大な法的効果を認識できるだけの判断能力があることが求められます

そのため、重度の認知症などで判断力が低下していることが明らかになったときは、裁判所に申立てをして成年後見人を選任してもらわなければなりません。

後見人選任の申立てができる人は限られており、場合によっては相手方の親族に協力を依頼するなどの対応が必要になってきます。

申立てが難しい場合には、訴訟を提起し、裁判手続きに限って相手方の代理人になることができる人(特別代理人)を選任してもらうという対応も考えられます。

相続が発生している

元の所有者が亡くなっている場合には、その相続人全員の関与がなければ手続を進めることができません

登記簿を手がかりにして住民票や戸籍を調べ、相続関係を確定していくのですが、古いものだと保存期間の経過で取得できないこともあります。

また、時効取得者が被相続人の親族でない場合には、個人情報保護の関係で、一人で調査を進めるのは難しいかもしれません。

相続人全員が相続放棄している

相続関係が判明したものの、全員が相続放棄をしており、誰も引き継ぐ人がいないという事態もありえます。

この場合には、例えば、裁判所での相続財産清算人の選任を経て、その人と協力して時効取得の手続きを進めることが考えられます。

相続財産清算人については、時効取得者も利害関係人として選任の申立てを行うことができるとされています。

行方不明者がいる

相手方が行方不明の場合の対応としてまず挙げられるのは、裁判所に対し不在者財産管理人を選任してもらうというものです。

時効取得者が利害関係人の立場で選任の申立てをすることも可能です。

また、最近できた所有者不明土地管理制度を使い、所有者不明土地管理人の選任を求める方法も考えられます。

休眠法人

一定期間、何の登記もされていない法人(休眠法人)については、解散したものとみなされ、法務局が職権で解散の登記を入れます。

その後に時効取得の手続きをする場合には、解散当時の取締役が清算人となって関与しますが、全員が死亡し後任者がいないときは、裁判所による選任が必要です。

選任の申立ては時効取得者などの利害関係人が行うことができます。

相手方に対し取得時効の援用の意思表示

相手方を特定できたら、時効援用の意思表示をします。

具体的なやり方は特に決められておらず、口頭で援用することも可能です。

もっとも、裁判外で行う場合には、後々の争いを防ぐため、時効援用通知書などの書面を送ることが一般的です。

相手方と所有権移転登記を共同で申請

事例
①平成14年7月15日、Bは、Aが所有する土地の占有を開始した(時効期間20年)。
②令和5年2月13日、BはAに対し、時効を援用する旨の意思表示をした。

占有開始から時効援用まで

時効援用前の登記記録

時効取得は原始取得ですから、AとBとの間に直接の法律関係はありません。

そのため、仮に登記簿が上のような状態であった場合、本来であれば、Aの登記を抹消し、B名義の所有権保存登記を入れ直すことになるはずです。

しかし、実務上は、Aが義務者、Bが権利者となり、時効取得を原因とする所有権移転登記を申請するという取扱いになっています。

登記申請書

(AとBが共同で登記を申請する場合の申請書の例)

時効取得の登記申請書

(完了後の登記記録の例)

時効取得の登記記録例

必要書類
添付書類名 具体的な書類
登記済証(登記識別情報) Aが登記名義人となった際に、Aに対して発行されたもの
登記原因証明情報 共同申請の場合、通常は報告形式のものを作成する
印鑑証明書 Aのもの(登記申請前3か月以内)
住所証明情報 Bのもの(住民票、印鑑証明書、戸籍の附票など)

(スマホでは右にスクロールできます)

占有開始後、所有者が変更した場合

チェンジ、変化のイメージ

上では基本的な登記申請の形をご紹介しましたが、占有が長期間に及ぶため、途中で所有者や占有者の変更が生じることも多々あります。

所有者が交代した場合の法律関係は、変更があったのが時効完成の前か後かによって区別されています。

時効完成前

事例
①平成14年7月15日、Bは、Aが所有する土地の占有を開始した(時効期間20年)。
②-1 平成27年5月30日、Aが死亡した(相続人はC)。
②-2 平成27年5月30日、AはCに対し、対象の土地を売った。
③令和5年2月13日、BはCに対し、時効を援用する旨の意思表示をした。

(②-1、②-2の場合)

時効完成前の所有者変更の場合の手続き

Bは所有権を原始的に取得するのであって、AやCから引き継ぐわけではありませんので、ここでは前の所有者が誰かという点はあまり問題にはなりません

時効期間の進行中に所有者が変わったとしても、承継者Cの立場は、占有開始時の所有者Aと同じだと考えることができます。

そのため、Bは、当事者関係にあるCに対しては、登記を経ていなくても、時効により所有権を取得したと主張することが可能です。

なお、所有権の取得を当事者以外の第三者に対しても主張するためには、登記の名義をBに変更する必要があります。

時効完成後

事例
①平成14年7月15日、Bは、Aが所有する土地の占有を開始した(時効期間20年)。
②令和4年9月16日、BはAに対し、時効を援用する旨の意思表示をした。
③-1 令和4年9月27日、Aが死亡した(相続人はC)。
③-2 令和4年9月27日、AはCに対し、対象の土地を売った。

時効完成後の所有者変更

(③-1の場合)

時効完成後の所有者変更の手続き

Aの生存中に時効が完成していますので、本来はAが義務者となって登記を申請すべきでしたが、死亡しているため、代わりに相続人Cが、Bと共同で手続きをすることになります。

なお、対象の不動産はAの遺産からは外れ、Cがその所有権を取得することはありません

ただし、既にCへの相続登記がなされている場合には、これを抹消することなく、CからBへの所有権移転登記によってBの名義にすることができるとされています。

(③-2の場合)

時効取得と対抗関係

この場合には、相続(③-1)とは異なり、BとCとは対抗関係に立ちます。

先に登記名義人となった人が優先されるため、仮にAからCへの移転登記のほうが早かったときは(㋐)、Cが確定的に所有権を取得します。

なお、㋐の後もBが占有を続けて再び時効取得の要件を満たしたときは、BはCに対し、登記なくして所有権取得を主張することができるようになります。

占有開始後、占有者が変更した場合

チェンジ

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続いて、占有者に変更があった場合を見ていきます。

占有者が交代した場合、時効取得を求める人は、自分の占有のみを主張するか、前の人の占有も併せて主張するか、どちらかを選ぶことができます

ただし、前者の分も併せるのであれば、他主占有や悪意・有過失などは、前の人を基準に判断されます

占有者変更と時効取得の期間

時効完成前

事例
①平成14年7月15日、Bは、Aが所有する土地の占有を開始した(時効期間20年)。
②-1 平成26年7月15日、Bが死亡し、相続人Cが占有を開始した。
②-2 平成26年7月15日、BはCに対し対象の土地を売り、Cが占有を開始した。
③令和4年9月27日、CはAに対し、時効を援用する旨の意思表示をした。

時効完成前の占有者変更

(②-1、②-2の場合)

占有者の相続人や特定承継人へ所有権移転登記

相続でも売買・贈与でも、前者Bの占有はCへと承継されます。

③の時点でのCの占有期間は8年程度ですから、自己の占有のみを主張するのでは、短期時効取得の要件も満たしません。

しかし、前の占有者Bの12年を合わせると20年を超えていますので、期間以外の要件も備えているのであれば、時効を援用し所有権を取得することが可能になります。

時効完成後

事例
①平成24年7月15日、Bは、Aが所有する土地の占有を開始した(時効期間10年)。
②-1 令和4年9月27日、Bが死亡し、相続人Cが占有を開始した。
②-2 令和4年9月27日、BはCに対し対象の土地を売り、Cが占有を開始した。

時効完成後の占有者変更

(②-1の場合 相続等の包括承継)

占有者変更に伴う手続きの違い

Bが生前に援用していたときは、時効が完成しBが所有者となったため、権利の変動の過程に沿って、A→B、B→Cへと名義を変更します。

Cが援用をした場合については、確たる判断は示されていないのですが、Cの元で時効が完成していることから、Aから直接Cへ移転登記申請ができると考えられます。

(②-2の場合 売買や贈与等の特定承継)

時効完成後の占有者変更の手続き

相続(②-1)の場合と同じく、Bの援用により時効が完成している場合には、A→B、B→Cへの2回の登記申請が必要です。

なお、仮に時効の完成後、AとDとの間で売買・所有権移転登記がなされたときは、CはDに対し権利の取得を主張することができなくなります。

相手方が手続きに応じない場合

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所有物を失うことになる相手方が手続きに応じてくれるとは限りませんし、財産の管理人や後見人は、原則として本人の不利益になるような処分をすることはできません

相手方の協力を得ることが難しいときは、訴訟を提起せざるをえない場合もあります。

事案によっては処分禁止の仮処分申立て

裁判での解決には時間がかかるため、手続きの途中で相手方が第三者に不動産を売却し、登記名義を変えてしまうことも考えられます。

そうなると、仮に勝訴判決が得られたとしても、その効力は第三者には及ばないため、結局、時効による所有権取得を主張できなくなってしまいます

このような事態を防ぐため、事情によっては、裁判所に対し、一時的に不動産の売却等を禁止する命令(処分禁止の仮処分命令)の申立てをすることも検討します。

処分禁止の仮処分の概要

時効取得の証拠

初めに説明した要件と推定規定をふまえると、当事者が裁判において主張すべき点は、それぞれ以下のようになります。

時効取得訴訟における原告が主張すること 時効取得訴訟における原告が主張すること

時効取得の成立を争う被告が主張すること

このうち両者の間で争いがある部分については、証拠を提出して主張の裏付けを行う必要があります。

例えば、占有していたこと(㋐㋑)を示す証拠になりうる資料としては、次のものが挙げられます。

  • 売買契約書、領収書、贈与契約書
  • 登記簿謄本
  • 固定資産税納税通知書・課税明細書、納付の領収書
  • 現況の写真、過去の写真
  • 関係者の陳述書
  • 時効取得を主張する人の住民票、戸籍謄本
  • 農地台帳

時効取得の実例

ケースや例・要因・原因のイメージ

特にご相談が多いケースをいくつか挙げてみました。

いずれの場合も、細かい事情一つで取りうる手段が変わってきますので、資料の調査や関係者への聞き取りなどにより、詳細な事情を把握することが重要です。

相続した不動産を長年放置していた

所有者が亡くなった後、遺産である不動産を単独で占有し続けてきた相続人やそのご家族が、登記を自己名義に変えたいと希望されることがあります。

相続した不動産を長年放置していた

遺言や死因贈与などにより特定の人が取得するのでない限り、被相続人Aの遺産は、死亡から遺産分割までの間、相続人BCD全員の共有財産として扱われます。

現在の占有者Fに名義を移したい場合、まずは相続人や承継者全員による遺産分割協議を試みることが多いです。

しかし、関係者の人数が多かったり疎遠であったりして合意の形成が困難なときは、解決方法の一つとして、他の相続人に対する時効の援用を検討します。

一般論としては、他の関係者の相続分については所有の意思がないため、不動産全体について時効取得をすることはできないと考えられます。

しかし、例えばBが相続する旨の合意がBCD間にあったと評価できるような場合など、事情によっては所有権の取得が認められる余地があります

名義を変更をしていない

家族の高齢化や死亡をきっかけに、住んでいる家の名義変更をしようと謄本を取ったところ、違う人が登記名義人だったというご相談です。

名義変更をしていなかった

このような事態になった理由としては、売買や贈与を口頭のみで行い、その登記手続きをしていない可能性が考えられます。

親族間でときどき見られるケースなのですが、たいていは契約書や領収書も作成していないため、所有権の移転を確認できる書類が残っていません。

売主側の相続人と疎遠だったり、先代から話が伝わっていなかったりすると、任意の協力を得ることも難しく、訴訟になってしまう場合もあります。

境界を越えた(越境)

土地の測量を行ったところ、塀や柵が隣地に入り込んでいることが判明したような場合です。

ある土地の一部のみを占有し、取得時効の要件を満たした場合には、その部分について時効を援用することができます。

ただし、取得した土地を自己の名義にするためには、前提として、隣地から越境部分を分筆する手続きが必要です。

越境していた場合

対象部分の面積は小さいことが多いのですが、その名義変更手続きに要する労力や費用は大きくなってしまいやすいです。

時効取得にかかる費用

電気代のイメージ

時効取得の手続きに要する費用としては、書類の発行手数料等の実費税金専門家への報酬などがあります。

協力が得られる場合と得られない場合

相手方の協力が得られる場合

司法書士事務所により扱いが異なりますが、他の原因(売買など)による名義変更と同じくらいの費用(報酬)で手続きができることが多いかと思います。

関連記事:取得時効の援用と登記

裁判で解決する場合

相手方の協力が得られない場合には、裁判によって判決等の債務名義を取得し、そのうえで登記申請をすることになります。

2段階の手続きが必要な分、費用もかさみますし、特別代理人や財産管理人の選任があった場合には、さらに負担が増えます。

なお、専門家への報酬は事務所により幅がありますが、一般的には、弁護士よりも司法書士のほうが安く抑えられる傾向があります。

関連記事:時効取得による所有権移転登記請求訴訟代行・サポート

時効取得に伴う税金

※あくまで原則的な取扱いですので、実際に課税されるか、具体的にいくら支払う必要があるかなどは、税務署や税理士にご相談ください。

不動産取得税

不動産の所有権を取得した場合には、その原因を問わず不動産取得税の課税対象となります。

基本的な計算式は次のとおりですが、取得した物件の種類などに応じた様々な軽減措置があります。

時効取得した土地等の財産の価額(時価) × 税率

所得税

個人が取得したときは、次の計算式で算出した金額が、時効援用をした年の一時所得として課税対象となります。

時効取得した土地等の財産の価額(時価) - 土地等の財産を時効取得するために直接要した金額 - 特別控除額(最高50万円) = 一時所得の金額 × 2分の1

法人の場合には、法人税法上の益金として処理するのが一般的です。

時効取得を阻止

STOP

時効期間の進行中に特定の事由が生じたときは、占有開始から10年または20年が経過したとしても、時効は完成しません

時効が完成しない場合として、「時効の更新」と「時効の完成猶予」の2つの制度が設けられています。

「時効の更新」は、一定の事由が発生すると、それまで進行してきた時効期間が法的に無意味になるというものです。

更新の原因となった事情が止んだときは新たな時効期間が始まり、その時点から10年または20年が経過すると時効が完成します。

時効の更新の例

これに対し、時効の進行を一時停止させるのが「時効の完成猶予」です。

猶予の原因となった事情が解消されると、止まっていた時効期間が再び進んでいき、従前の期間と合わせて10年ないし20年が経過すると、時効取得が可能になります。

時効の完成の猶予の例

また、時効の更新と完成猶予が組み合わさる場合もあります。

具体例
時効の更新 承認、占有をやめた、占有を奪われた
時効の完成の猶予 仮差押え、仮処分、裁判外の催告、天災その他避けることのできない事変
時効の更新+時効の完成の猶予 裁判上の請求、支払督促、和解、調停、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、強制執行、担保権の実行、担保権の実行としての競売、財産開示手続、第三者からの情報取得手続

(スマホでは右にスクロールできます)

実務上、特に問題になりやすい事由をいくつか取り上げます。

占有が途切れる

占有を継続することは取得時効の要件ですので、これが途切れた場合には時効取得は認められません

占有者が自ら占有をやめたり、第三者に占有を奪われたりすると時効が更新され、最初からやり直して要件を満たさなければならなくなります。

承認

承認とは、時効の利益を受ける人が、時効によって権利を失う人に対し、その権利の存在を認める行為のことです。

例えば、占有者が、不動産の所有権は元の所有者にあると認めた場合などで、承認があると時効が更新されます。

裁判上の請求

時効を阻止したい人が、時効の利益を受ける人に対して訴えを提起することを、裁判上の請求といいます。

元の所有者が、自分に所有権があることの確認を求め、占有者を相手に裁判を起こすような場合です。

裁判上の請求があると、まずは訴訟手続きが終わるまでの間、時効の完成が猶予されます。

そして、確定判決や和解などによって権利関係が確定したときは、その時点から新たに時効期間の進行が始まります。

時効取得の手続きは誰に相談すべきか

ウェブでのコンタクト 連絡先

時効取得の手続きが検討されるのは、資料がなかったり関係者と連絡が取れなかったりと、他の手段では解決が難しい事情がある場合がほとんどです。

誰に対しどのような主張をし、資料として何を用意すればいいのかは、個々のケースごとに違ってきますので、いちど専門家に相談されることをおすすめします。

事務所によって得意・不得意分野がありますので、不動産、相続、登記、裁判業務に詳しい弁護士や司法書士を探すようにしましょう。

当事務所では時効取得の登記手続き以外にも、訴訟代理人若しくは本人訴訟のサポートをしております。

ご依頼を検討している方向けに、サービス案内を無料にて承っておりますので、まずはご予約をお願い致します。

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この記事の執筆者

司法書士 行政書士 樋口亨
司法書士 行政書士 樋口亨
東京司法書士会所属 登録番号7208号
東京都行政書士会所属 登録番号第19082417号
司法書士法人リーガル・ソリューション 代表司法書士
行政書士事務所リーガル・ソリューション 代表行政書士
前職の不動産仲介営業マン時代に司法書士試験合格。
都内の司法書士法人に転職し経験を積んだ後、司法書士法人リーガル・ソリューションを設立、同社代表社員就任。
開業以来、遺産相続、不動産登記手続き、不動産に関する紛争の解決(立ち退き、賃貸トラブル、共有物分割請求、時効取得等)に特化。
保有資格は、司法書士、行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者、競売不動産取扱主任者。